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欠片世界 -Fragments-
欠片世界 -Fragments-
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欠片世界 -Fragments-[小説コミュニティ]

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欠片世界 -Fragments-

ミカナギ}
ミカナギ
「欠片世界 -Fragments-」コミュニティのメイントピックです。
コミュニティの趣旨につきましてはコミュニティトップ(http://novelist.jp/commu.php?id=70)を参照いただければと思います。
これから書く予定の物語の断片を放り込むもよし、すでに書いた作品の一欠片を放り込むもよし。
自作の宣伝目的(?)の断片の投稿でも全然構いませんどころかウェルカムベイビィですが、コミュニティトップの注意事項を一読の上、投稿をお願いします。
2010-06-30 02:13:35

コメント (8)

辻原貴之  2010-12-13 22:34
「ブラフマンをだせー」
 ティルトが鉄琴を器用に操って、台詞と同じ音階を叩く。
 ………………。
 ………………………………。
 ………………………………………………………………。
 へんじがない。ただのしかばねのわけはないが。
「うーん」
 ティルトが唸る。
 少し待った末に、はたと何かを思い付いたかのように再びバチを手に取ると、毎週休日の決まった時間に、朝市の屋台を片付けた場所を巡回しながら開催されている『のど自慢大会』で合格者が出た時の音階を叩いた。
「…………お、合格者か!?」
 今度は反応があった。
 しかし、顕著に反応が出る辺り、『のど自慢大会』は意外と認知度が高いのかも知れない。
 まぁ、バルメースに来て日の浅いアスパーンが知っているくらいだから、市民的な認知度は言うに及ばないのだろうが。
 奥から出てきたのは、ゼンガーからソーレンセンを預かっている職人の親玉(?)、ボルダーだった。
 休憩中だったのか、トレードマークとも言えるタオルを今日は首に引っ掛けて、襟元の汗を拭いている。
 ついでに言えば、今の今まで、ボルダーはタオルでハゲを隠しているのかと思っていたのだけれど、そうじゃないらしい。
 頭部には癖の強い剛毛が、これでもかというくらい密集している。
 寧ろ、その汗をタオルで吸い取ることで、ハゲることを防止しているのかも知れない。
「ボルダーのオッサン、久しぶり!」
「……なんだ、残念賞か」
「残念じゃねぇよ! いずれキチンと合格するつもりだよ!」
 明らかにガッカリした表情のボルダーに、ティルトが食って掛かる。
 ……もしかして、挑戦したことがあるのか、ティルト。

(ジークバリア放浪記【FIFTH CASE】より一部抜粋→http://novelist.jp/28836.html)

村崎右近  2010-07-25 09:01
 ヤンバッハ・ライノールトは、朝日が昇る直前の薄明かりの中で目を覚ました。
 うつ伏せで寝る習慣を持つ彼は、顎の下に敷いてあった枕をその先へと押しやった勢いのままに大きく伸びをする。
 身体と脳に充分な酸素が送られたのを確認してから、寝台を降りて立ち上がる。身長が二メートルを超えている彼は、立ち上がってから伸びをすると腕が天井に当たってしまうのだ。尤も、就寝以外の目的で部屋を使うことがないので不自由はしていない。彼にとって切実なのは、天井の低さよりも寝台の狭さだった。
 彼は自慢の髪を整えることを毎朝の日課としている。全身を映せる大きな鏡は、彼のお気に入りだ。
 彼が覗き込んだ鏡に獅子の顔が映る。それは正真正銘ヤンバッハ・ライノールト本人の顔だ。彼は獅子頭の獣人なのだ。
 首から上は獅子。その他は、体表を体毛が覆っていることと、尻尾があることを除いて、ほぼ人間と同じ身体の作りをしている。
 自慢のタテガミを整え終える頃には、周囲は完全に朝の風景となる。
 太陽が頂点に差し掛かる頃、彼は昼の日課を果たすべくある場所に待機する。その場所とは、門と呼ばれる異界と繋がる泉。彼はその番人なのだ。
 太陽が頂点に到達すると、門が開き泉の中央に水柱が生まれる。水柱が消えたとき、異界からの来訪者フォルが姿を現す。
 名前以外の全ての記憶を失いし迷い人、フォル。
 なぜこの世界を訪れるのか、なぜ名前以外の記憶を失っているのか、諸々の仮説はあれど決め手はなく、全ては謎のまま。
 彼、ヤンバッハ・ライノールトも、こうしてこの世界にやってきたフォルの一人だ。彼は自分と同じフォルたちを迎える職務に誇りを持って当たっていたが、それも今日で終わりとなる。

「時代が動こうとしている」
 泉の管理者は言う。
「歴史の奔流を肌で感じることが、門の謎を解くことに繋がるだろう」

 太陽が頂点に到達する。
 待機していたヤンバッハ・ライノールトの目前に水柱が起こり、そしてそれはすぐに消えた。代わりに一人のフォルを残して。
 ヤンバッハ・ライノールトは、最後となる今まで何度となく告げてきた言葉を、万感の念を持って宣言した。
「ようこそ、フォルよ。この世界はお前を歓迎する」
(タイトル未定)

空言縁  2010-07-18 01:10
 裏通りで、一人の少女が駆けていた。服の上から旅には欠かせないローブを羽織っている、十七歳くらいの女の子だ。フードはしておらず、短く切った金髪が風になびいて煌く。
 彼女は息を切らせながら裏路地を走り抜ける。
 それを追いかける影は四つ。手には鈍く光る剣。薄汚い姿をした、盗賊である。
(……何だっていうのよ、もう!)
 そんな風に心の中でごちた。
 旅の汚れはついているが端整な顔を後ろに向け、左右の色が違う瞳で、キッと盗賊をにらみつけた。
 しかし、盗賊たちは止まらない。
(……使いたくはないけれど、使うしか、ないか……!)
 そう決心し、『ソレ』を使おうとする。
 そのときだ。少女と同じくローブをまとった影が、突如として現れたのは。
 盗賊たちがその影に斬りかかる。
 一番前の盗賊が、気勢を上げて剣を縦に振った。しかし刃は右の手甲で弾かれ、体勢を崩す。がら空きになった腹に強烈な蹴りを打ち込まれ、後ろに来ていた盗賊一人を巻き込み、倒れる。
 それを飛び越えた盗賊の凶刃が迫る。今度は振るのではなく、突いてきた。だが、左手に握った剣で流し、顔面を殴りぬいた。
 一瞬の隙ができ、そこを狙った盗賊が剣を投擲。弾けば後ろの少女が危険だ。一秒にも満たない時間でそれを判断し、その影は脚につけたホルスターからカード状のものを取り出して剣に挿し込んだ。
 ――瞬間、空気の割れる音が生じた。
 剣は、何もない虚空に衝突し、金属特有の高い音を発して、ポトリ、と地面に落ちた。
「てめえ、数式使いか!?」
 そう叫ぶと同時、影は盗賊に向かって踏み込み、剣を喉元に突きつけていた。
「答える必要、あるか?」
 盗賊は言葉の代わりに首を横に振って返答をする。
「――じゃあ、後は仲間と一緒に帰ってくれ」
「は、はい……。し、失礼しました!」
 盗賊は首に向けられていた剣がしまわれると同時に、仲間を回収して走り出す。一分とたたないうちに、盗賊の姿は消えた。
 影――少し癖のついた黒髪、漆黒の瞳、少女と同じくらいの年と思われる少年――は少女の方を向き、口を開いた。
「大丈夫だったか?」
 これが、少年ローレンツと少女ミリアの、はじめて出会った瞬間だった。

(『数式使いの解答』より一部抜粋→http://novelist.jp/553.html)

ミカナギ  2010-07-12 20:39
「……ナニコレ」
「何って、薬だろ。ほら、早く飲めよ」
 思わず聞いたら、テディは真面目にそう返してきた。確かにテディが言うならもっと面白い冗談を言うだろうけど、それにしたってこの状況は笑えない。
「飲めってこれを?やだよこんな毒物。っていうか原材料なによこれ、飲んだ途端にお腹壊しそうなんですけど」
「毒物ってなんだよ。折角俺が作ってやった特製の風邪薬だぞ。それに、飲んだって腹壊したりはしないから大丈夫。俺が保障する」
「あんたに保障して貰ったって信用なんかできないっつの。それにあたし、苦いの嫌い。あとこの下水みたいな匂いも嫌」
 風邪を引いたあたしのために、テディがせっせと朝から煮込んでいたのは、いわゆる「カンポー」と言われてるモノだった。材料が材料なら見た目も見た目で、マグカップに入れられた毒沼みたいな色と匂いをしたその強力なブツを、ただ「飲め」と言われて「はい飲ませていただきます」と飲めるワケがない。
「苦いだの下水だのって、人が三時間もかけて作ったものを好き放題言ってくれちゃって……じゃあほら、口直しやるから。さっさと飲めよ。早く治したいだろ?」
 あたしがマグを突き返すと、テディは冷蔵庫からオレンジジュースの缶を持って来てくれた。ベッドに座っているあたしの隣に腰掛けて、目で「飲め」と促す仕草に、あたしも観念して苦い匂いが立ち上るマグカップに口をつける。
 一口飲んだ途端の脳髄がしびれるような不味さに、あたしが思わずぎゅっと目を瞑ると、テディが苦笑いで「そんなに不味いかー?」と聞いた。目を閉じたまま首を縦に振ったら、もう一度テディが笑う気配がして、テディの指先がくしゃりとあたしの髪を撫でた。
「我慢だ。飲んだらジュースやるから、ほら、さっさと飲んじまえ」
 テディの手からは、強い煙草の匂いにまぎれて、かすかに火薬の匂いがした。
 人殺しが職業のテロリストは、あたしが寝ている間にどこかでまた人を殺して来たらしい。
 あたしに笑いかけるその顔で、あたしの頭を撫でるその手で、テディは誰かを殺す。
 銃の撃鉄を上げ、引き金に指をかけて、神様の名前を呟きながら、

――……祈りながら。

(タイトル未定・関連作品「城塞都市/翅都 fragments」→http://novelist.jp/13433.html)

村崎右近  2010-07-03 18:00
 
 吾輩はとある陰陽師夫妻と暮らしておった。夫の方が神主をしておったから陰陽師とではなく退魔師と呼ぶべきやも知れぬのであるが、実に些細で細やかな事柄である故そのまま陰陽師と呼ぶ事にする。
 陰陽師には娘がおって、夫はその町の一帯を守る事に妻は幼き娘を守る事にそれぞれ専念しておった。そこにひょっこりと迷い込んだ吾輩は陰陽師夫妻に敵とみなされてしまったのである。陰陽師夫妻の力は本物ではあったが如何せんその強度が足りておらず、吾輩の相手としてはいささか力不足であった。蹴散らす事は容易であったが吾輩は単純に闘う事には何の興味も抱いておらず、無下に力を振るう事においては嫌悪の念すら抱いておった故すぐさま停戦を申し入れた。
 紆余曲折を経て吾輩が陰陽師夫妻の娘を守る事となったのであるが、それはまた別の話となるので今は触れぬ事にする。
 師走が終わりに近づく頃になると小学生という区分に分類されている陰陽師の娘は毎年酷く塞ぎ込むのである。吾輩が何故かと問うても夫妻は苦笑いを浮かべるだけで何も答えてくれなんだので、娘の夢枕に立ちその原因を聞き出したのである。人間の風習に疎い吾輩には詳しく分からぬのであるが、どうやら“くりすます”なる祝事を行えぬ事に対する不満であると判明した。夫妻にその事を告げると『分かっていたのですが……』と語尾を濁し決まり悪そうに頭を掻くばかりであった。
 陰陽師が曰くに『西洋の宗教的な祝い事なので……云々』との事であったが、吾輩には皆目理解出来なんだのである。猫属には猫属にしか分からぬ事情があるのと同様に人間にも人間にしか分からぬ事情が存在するのであろう。であるならば、猫属である吾輩が推し測る事もままならぬのは致し方ないと云う思いに至ったのであるが、すでに娘には情が移っておった故このまま諦めてしまうのはあまりにも口惜しきと考えどうしたものかと妙案を探す事にしたのである。

(「化け猫は斯く語りき≪5.『悪魔の人形』≫」より一部抜粋→http://novelist.jp/690.html)

ミカナギ  2010-06-30 21:26

 建設途中で放り出されたのだろう。それは無骨なコンクリートが流し込まれただけの鉄筋のビルで、放置された鉄骨やら三角コーンやらがごろりと辺りに転がるまま錆び付いていた。
 車を降りて傘を差し、改めて辺りを見渡せば人家はほとんどなく空き地が目立った。神父様が説明してくれたところによれば、ここはわたしが想像したとおりの町の東の外れで、昔どこかの政治家の利権がらみで乱開発されたがバブルの崩壊で地価が急激に下落し、開発は見送られて置き去りにされ、そのままになっている地域らしい。
「わたし、この辺はただ単に僻地なんだと思ってました。それか売れない新興住宅地とか」
「当たらずとも遠からず、だね。どうも最初は新興住宅地として分譲される予定だったようだよ。今はどうなってるんだかわからないが……」
「そうなんですか……って、その、私の護衛をしてくれるって人はこんなところに?」
「少々変わった娘なんだよ」
 さぁ行こう、と言われたその廃墟ビルの、扉のついている側から見える窓二つには黒いブラインドがきっちりと下りていた。
 放置されるままにされている他のものと違って、そのブラインドには埃も錆もついていなかった。誰かがそこを利用していることだけは事実のようだ。
「一月、私だ。いるんだろう?開けてくれないかい」
 神父様はビルのドアの横についた小さな、なんとも粗雑な作りのチャイム、と言うよりブザーを押しながらそう言った。
 ビルの中に、ビーっと風情も何もないそのブザーが鳴り響いているのが、ドアの外にいても聞こえる。
「……留守なんではないんですか?」
「いや、そんなはずは……一月!開けなさい!」
 ブザーを押しつづけても中からは誰も出てこなかった。わたしが聞くと神父様は溜息をついて、それからどんどん、と二回、そのドアをノックした。
 それでも中から反応は返ってこない。それでわたしがもう一度、やっぱり留守なんですよ、って言おうとしたその瞬間、神父様は酷く困ったような顔をして、それからその名前を呼んだ。
「月!開けなさい!」
「……――ユエ?」

(タイトル未定・関連作品「光」→http://novelist.jp/2855.html)

空言縁  2010-06-30 06:40
「なんでこう、季節の変わり目ってのはこうも曖昧なんだろうな」
 先輩はふとそう漏らした。
「曖昧、ですか」
「ああ、曖昧だ。どの季節だって、『ああ、もう~なんだなぁ』って思うだろ?」
「ええ、まぁ……」
「ところが、季節の変わり目で、『ああ、今ちょうど季節の変わり目だなぁ』なんて思うか?」
 いいえ、思いませんね。と答える。
「そこなんだよ。季節の変わり目、つまりは境界線が曖昧模糊としてるのに、季節自体ははっきりしてる。これって不思議だと思わないか?」
 先輩の話は面白い。なるほど、確かに不思議だ。
 でも。

「それは猫の考えることじゃないですよ。人間たちにまかせましょう」

「そうだな。――なら、私はハルの膝で寝るとしよう」
「お供しましょう」
 そう言って、ぼくたちはハルさんの元へとむかったのだった――。

(書き下ろし。タイトル『境界線のひととき』
関連作品「季節ものショートショート」→http://novelist.jp/8635.html)

ミカナギ  2010-06-30 02:37

 その昔、僕が生まれるずっと、ずーっと前。
 この街はひとつの「塞城」だったのだと言う。
「塞城」というのは、この街がまだ「国」と呼ばれていた頃、外からやってくる「怖いもの」を防ぐために作られた建物のことなのだそうだ。世界がある日突然めちゃくちゃになってしまった時、此処だけほとんど壊れることなく残ったのも、その「怖いもの」からたくさんの人を守ろうとした昔の王様が、此処をとても、とても丈夫に作っておいたからなのだという。
 今ある世界を作ったのは「戦争」とかいう今はもうない国同士の争いごとで、その戦争がどうやって始まって、どうやって終わったのか僕は知らない。と、いうか、この街ではそんなことを知ってる人間を探す方が難しいと思う。なにしろそれはそりゃもうとんでもなく古い時代の話な上、皆今を生きるのだけで精一杯だから。
 とにかく、その「大壊滅」と今でも語られる戦争の後、世界には本当に少しの人間しか残っていなかった。そんな災害の最中にあって、戦争で壊れきった世界の荒野にぽつんと聳え立つ鉄鋼作りの塞城は、生き残った人々の目にとても頼もしく映ったに違いない。
 その威容は辛くも生き残った人々を自然とその内に呼び集めることになり、塞城の中がいっぱいになって、誰も入れなくなっても集まってくる流民は絶えることがなかった。人々は塞城の周りに家を建て、人が増えるに従って家も増え、時が経って木造のバラックが鉄筋やコンクリートに変わる頃には、無計画な増築によって張り巡らされた道は地図を作ることなど不可能な迷路へとその姿を変えていた。
 荒野に聳え立つ鋼鉄の城の面影は年ごとに次第に薄くなり、やがて混沌はすべてを飲み込んで、そうやってかつて人々を守るために作られた塞城は、僕がよく知る今の「街」になった。
 その街の名を、「翅都」と言う。

(「城塞都市/翅都」より一部抜粋→http://novelist.jp/5063.html)