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股野 特大
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novelistID. 38476
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桃色詐欺メール

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桃色詐欺メール


 スマホが震え、メールを告げる。
 見慣れぬアドレスが画面に現れている。とりあえず僕はチェックした。

「今夜は帰ってくるの?連絡ください」

 見知らぬメルアドからのいきなりの質問に、さてはまた詐欺メールかと思った。この手のメールは必ず知らぬアドレスから送られてくる。そして都合よく話を合わせた所で同情を誘いお金を振り込んでほしいが詐欺メールのパターンだ。
 待てよ、どうせ騙しの詐欺だから、こっちもいたずらで楽しんでやれ・・・
僕は笑いを抑えてスマホに向かって返信メールを打ち出した。

「今夜は帰らないよ、泊まってくるから」

 どんな返事が返ってくるんだろう。時刻は夜の9時、普通のサラリーマンだったらとっくに帰ってくる時間だ。それに偽りメールだとバレやしないか・・
大胆な悪戯をしたワリには小心な僕がいる。
 
 返信はすぐに携帯を震わせた。
わかっちゃいるが見知らぬ他人からの返信にビクリとする。
な~に顔も知らない相手だし大丈夫さ・・自分で少し怯えた心に勇気づける。

メールは「昨日も泊まりだったじゃない!浮気してるんでしょ!」と短い文面の中からも彼女の怒りが垣間見えた。


はぁ~、どこもかしこも男と女は争いばかりか・・・好きで付き合い始めたくせに、結局こうなる。シングル生活で自由にしている僕はひと昔前の自分の生活を思い出した。
なんだか昔の彼女に言われたセリフと重なり、少しムッとして返信した。

「浮気するのは君のせいでもあるんだよ
 優しさも色気もどこかに捨ててきたの?
 最近の君を見てたら つまらない
 それだったら男は誰だってよその女に目を向けるさ
 恋愛ごっこでいいとこの見せあいっこが楽しいからね」

 昔の彼女に言えなかったことをメール返信した。
 いいのかよ・・・知らないメールに勝手に返事して・・・
 どうせ顔も見えない、知らない相手さ、詐欺ならなおさらこれぐらいの返事でいいんだよ・・
 僕の中のもうひとりの自分が毒づいていた。
 どんな返事が返ってくるんだろう・・・
 僕はスリル感のあるいたずらに少し興奮しながら返事を期待した。

「あなた誰? 私の主人はこんなこと絶対書かないわ。失礼な人ね」

 携帯画面の向こうで驚き、そして恥ずかしさを隠してるであろう一人の女性が頭の中に浮かんだ。

返信した。

「間違いメールを送ってきたのは君だよ。詐欺仲間じゃないの?これも手口?」

なんだか相手が見えないことをいいことに僕は強気で返信している。
それから携帯電話を見続けたが、返信は来なかった。
なんだ、ただの間違いメールか・・詐欺だったらなんとかして話を繋げてくるもんな、ちぇっ!
何を僕は期待してたんだろう、詐欺と遊びたかったわけじゃないが、このまま、メールの向こうの彼女が消えてしまうのも惜しい気がした。もしかしたら後からまた来るかな・・・と思い、そのままテーブルに携帯を置きテレビを見ながら夕方買ったワインを飲み続け、彼女の返信を待った。




 いつのまにかウトウトしていた。最近、アルコールが入ると眠たくなる習慣がついてしまってる。テレビは午後11時のスポーツニュースが流れていた。
 あっ、そうだ携帯・・さっきのメールの続きは来たかな?
 僕はテーブルの上に投げ出し置いていたスマホの画面を見た。
 3件のメールが来ていた。
 全部、先程の彼女からだった。
 んっ、やっぱり詐欺?作戦を練ってきたのかな?
 また始まった騙し合いのようなメールに興奮を覚え一気に目が覚めた。

 最初に届いてた20分前のメールを見た。

「こんなメール送るのごめんなさい。私は詐欺ではありません。ただ単に間違ったみたいです。だってあなたのメルアドと主人のメルアドは一文字しか違わないんだもの。いつもの携帯でなくパソコンで打ったものだから間違えたみたいです。どうも失礼しました」


 ふ~ん、間違えた理由付けはもっともらしい。
これなら信用するな普通・・。
 僕は返信してきて繋がりを持とうとする詐欺女の巧妙さに騙されまいと心にガードを一枚張った。
 2番目のメールはその5分後に発信されていた。

「あなたはどんな人なの?わざわざ男の気持ちを代表するような返事してくれて。
ごめんなさい、今日は酔ってるから、つい面白くて」

つい面白くて・・・?
何だこいつ、僕と同じじゃないか!
僕は詐欺かもしれないが見えない顔のこの女性に興味を持ち始めた。
ガードはもろくも崩れ始めている。
酔ってるから許してね的な文面が、つい信用してしまう。
それに、彼女ってどんな人物なんだろう?
主人・・・帰ってこない・・・怒っている・・夜遅くに酔って見知らぬ男にメール・・・
いくつもの怪しい謎の部分を含んだ言葉が僕の好奇心をくすぐる。

3番めのメールを読んだ。

「疑ってるの?詐欺じゃないわよ。あなたが騙してくれたら私 騙されたふりするから」

んっ、なんだろこの意味深なメールは?
寂しくて遊んでほしいのか?
いやいや、巧妙に計算された新手の詐欺かも?
“あなたが騙してくれたら私 騙されたふりするから”
これはどうとったらいいのだろう?
男の心をくすぐるような文面が香水を帯びた言葉のように香ってくる。
僕は時計を見た。
最後のメールからまだ5分だ。今ならまだ連絡は続くかも・・・。
待てよ、自分から蛇の穴に飛び込もうとするのか?
僕は自問自答しながら、どこかでこの面白さに引きずりこまれていた。これは男の下心を見透かしたような危険な甘い誘惑、そのものじゃないか・・・。だけど推理小説の謎解きのような文面にその先を知りたくなってきた。

 どうせメールだけだ。この僕の顔が知られてるわけじゃない。自宅だってわからないはずさ。危ないと思ったらやめればいいし、最悪メルアド変えても、そう困らない・・・。
 僕は彼女とメールを続けるため、まともな自分に言い訳をいくつも思い浮かべていた。
そして、好奇心旺盛な僕の素の心が「面白いじゃないか!」と舌をペロッと出し、彼女に急いで返事することにした。

作品名:桃色詐欺メール 作家名:股野 特大