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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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飛んで魔導士ルーファス

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第2話_大魔王光臨!


《1》

 自室のベッドを同居人Bに明け渡し、ルーファスはリビングのソファで眠っていた。
 そこへ謎の物体Bが飛来。
 ルーファスの腹に厚底ブーツがめり込んだ。
「ぐあっ!」
 限界まで開けたルーファスの目に映ったのは、笑顔で自分の腹の上に乗るビビ。
 目覚めの悪い1日がはじまった。
「ダーリン早く起きて、朝食の準備できてるよ!」
「もっと優しい起こし方できないわけ?(胃酸が喉まで昇ってきた)」
 とにかく目は覚めた。眠気なんて宇宙の彼方だ。
 ソファから降りたルーファスは腹を押さえながらキッチンに向かった。
 そこでルーファスが見たものとは!
 コンビニ弁当だった。
「……朝食の準備はたしかにできてるけど(これは正しいあり方なのか?)」
「ダーリンより早く起きて買って来たんだから、褒めて褒めて!」
「うん、ありがとう……というかお金は?」
「もちろんダーリンのお財布からに決まってるじゃん!」
「ところで、そこにあるお菓子の山は?」
 ルーファスはまさに山積みにされているお菓子を見た。
 ポテチ、チョコ、なぜか酒のつまみまである。
「コンビニ行ったついでに買ってきたんだよ、ダーリンにも少しわけてあげるね♪」
「で、そのお菓子を買ったお金は?」
「ダーリンのお財布からに決まってるじゃん!」
「……そう(少しわけてくれるって、間接的に僕の物だよね?)」
 そんなやり取りがありながら、とにかく朝食を食べ終え、お茶を飲んで一息つくルーファス。だが、そんなまったりした時間も長くは続かなかった。
 壁掛け時計を見たルーファスの顔色が変わる。
「遅刻じゃん!」
 ソファでなんか眠っていたせいで、生活リズムが完全に狂ってしまっていたのだ。
 急いで学校へ行く準備をするルーファス。着替えを済ませ、ボサボサの長髪を結わき、ビビのいるリビングに戻ってきた。
「僕の財布どこ!?」
「う〜ん、その辺に置いたけどぉ?」
「その辺じゃなくて、ちゃんと元の場所に戻しておいてよ!」
「(元の場所なんかあったんだ)」
 ビビの目に映ったのは腐海の森と化した汚い部屋。
 汚さの系統をいうならば散らかってる系である。
 魔導書とマンガが塔を作り、服が一か所に山積みされ、紙クズや缶やペットボトル、資源ごみなども放置されている。
 黴菌も繁殖してそうな勢いだ。
 あれでもない、これでもないと、発掘作業をしてついに財布を発見!
 しかし、中身が入っていない。
「僕のお金は、まさか全部使ったわけじゃないよね?」
「全部は使ってないよぉ、ちょっとは残したもん」
 入っていなかったのはお金だけではなく、ポイントカードや定期券、何もかも入っていなかった。
「定期がないと学校に行けないよ!」
「大丈夫だよっ、ダーリンはやればできる子だもん!」
「なにその励まし、効果ゼロだし!」
「しょーがないなぁ、アタシが学校まで送ってあげようか、チュウ1回で?」
「断ります」
 即答だった。
 ルーファスは瓦礫の山をひっくり返し、やっとの思いで定期券を発見した。
「見つけた!」
 すぐにルーファスは玄関に向かって走り出した。
「じゃ、僕行くから、留守番よろしくね!」
「ダーリンお弁当忘れてるよ!」
 そう言ってビビが差し出したのはコンビニおにぎりだった。
「そんなのいらないよ!」
 怒ってルーファスは家を飛び出した。
 ビビもほっぺたを膨らませて怒っていた。
「もぉ!(せっかく買ってきたのにぃ)」

 学院の鐘の音を聞きながらルーファスは教室に飛び込んだ。
 ギリギリ―セーフ!
 ヘトヘトの身体で椅子に座り、そのままルーファスは机に突っ伏した。酸欠でお花畑の幻想が見える。
 だいぶしてから教師に担任が入ってきた。時間通りにこの担任が教室に来たことは一度もない。
 黒髪をなびかせながら、無音で歩く女教師カーシャ。朝は低血圧で切れ長の目がさらにキレていて、今にも殺人しそうだ。
 机とキスをしているルーファスの耳には届かなかったが、クラスはいつもと違うどよめきに包まれていた。
 生徒の視線はカーシャの後に入ってきた美少女に注がれていた。
 カーシャは爆乳を揺らしながら教卓に両手をついた。
「以下略だ」
 その一言でカーシャは済ませた。
 明らかに以下略の使い方が間違っている。
 そして、カーシャはかったるそうに空いてる席を指さした。
「さっさと座れ」
 これに美少女は反発した。
「まだ自己紹介もしてないのにぃ!」
「勝手にしろ(二日酔いで頭がガンガンする)」
 今日は低血圧ではなく二日酔いらしい。
 美少女は勝手にすることにした。
「みんなよろしくね、アタシの名前はシェリル・ベル・バラド・アズラエル。ビビって呼んでね♪ えっと好きな食べ物は……」
 まだまだ自己紹介は続きますって感じのところで、叫び声が妨害に入った。
「なんでいるの!?」
 もちろんその声をあげたのはルーファスだった。
 大声で叫んだルーファスの眉間にカーシャの投げたチョークが直撃。
「二日酔いに響くだろうが!」
 カーシャの目は完全にすわっていた。
 持っていたのがチョークでなくてナイフでも、躊躇なく投げていたに違いない。カーシャの近くにあったのがチョークで運がよかった。
 頭を押さえ痛がるルーファスの横の席で、心配そうな顔をして見守るビビ。
「大丈夫ダーリン?」
「大丈夫なわけないでしょ……ってなんでそこに座ってるの!?(ボブは? ボブがいない!?)」
 そこにいるべきクラスメイトがいなかった。変わりにいるのはビビ。クラスの仲間が1人減ってる!?
 魔導学院は落第退学が普通の学校に比べて遥かに多い。だが、あまりに唐突すぎる。
 なんだかルーファスを襲う強烈な頭痛。呪いだ、呪いに違いない。仔悪魔の呪いだ!
 依然としてかったるそうなカーシャが口を開く。
「ボブは休学になったから黙祷しろ(胃がもやもやして吐きそうだ)」
 なんで休学になったんですか?
 しかも黙祷ってなんですか?
 みたいなカーシャの手をわずらわせる質問は命取りになる。今のカーシャには触れないほうがいい。
 いったいボブになにが起こったのか!?
 よからぬ妄想をしてルーファスは蒼ざめ、その顔でビビを見つめたが、ビビはニコニコと笑うだけだった。その笑顔の奥にどんな秘密が隠されているのかっ!
 ルーファスは危機を感じていた。絶対にビビはこのクラスにトラブルを持ち込む。
 ただでさえ、このクラスにはトラブルメーカーが多いというのに(ルーファスとか)、そこにビビを投入するというのは、火にニトログリセリンを注ぐに等しい。
 そして、クラスはすでに不穏な空気に包まれていた。
 ビビに爽やか笑顔を贈るクラウス。
 ワラ人形を片手に不敵に微笑むローゼンクロイツ。
 そして、廊下から発せられる鋭いプレッシャー。
 ルーファスはすぐに廊下を見たが、ドアのはめ込みガラスの先には誰もいなかった。
 クラウス魔導学院への編入は、入学するより難しいと言われ、転校生はとても珍しい。しかも、美少女のオプションが付けば人気者にならないわけがない。
 頭が痛いルーファスをよそに、ビビはいつの間にかクラスの人気者。特に餓えた獣からの人気は絶大だ。