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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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飛んで魔導士ルーファス

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第4話_学校のきゃあ


《1》

 いわゆる丑三つ時――スヤスヤと安らかに寝息を立てながら眠るルーファスに忍び寄る影。忍者か暗殺者か曲者か!?
 大きく振りかぶって、ズゴッ!
「うぐっ……!?」
 腹を押さえながら飛び起きたルーファスの絶叫。
「うぎゃーっ!」
 闇の中に浮かぶ女性の顔。懐中電灯を顔に当てたビビだった。
「うらめしや〜」
「脅かさないでよ!(チビるとこだったじゃないか)」
 スパーン!
 と、ビビの頭にスナップを効かせた平手打ちが決まった。
「いた〜い!」
「脅かすからだよ」
「だって、夜中に人を起こす時はああやって起こすって教わったんだもん」
「誰に?」
「ベルに決まってるじゃん」
「……信じないでよ(ベルもロクなこと教えないんだからぁ)」
 すっかり目が覚めてしまったルーファスは目覚まし時計に目をやった。
 時計の針は2時過ぎを指している。
「まだ朝にもなってないじゃん。なんで私をこんな時間に起こしたのか正当な理由を聞かせてみてよ」
「だって今日は満月だよ、満月と言ったらエスバットに決まってるよぉ」
「?えすばっと?ってなに?」
「え、エスバットも知らないなんて……ダーリンがそこまでアホだったなんて、ビビ悲しい」
「アホっていわないで、アホって」
「だって悪魔や魔女の間じゃ知らない人いないよぉ。それでも魔導学校の生徒さんなの?」
「あー、思い出した」
 エスバットとは小集会のことだ。満月の晩は魔法使いと悪魔で集会を言う。大きな集会になるとサバトになり、年に8回やることになっている。
 付き合いきれないといった感じで再びベッドの中に潜ろうとするルーファスに対して、ビビは強引に掛け布団を引き剥がそうとした。だが、ルーファスも負けじと掛け布団にしがみ付く。ここでルーファスは重大なことを忘れていた。ビビは見た目に比べて力が強い。
「うわっ!?」
 掛け布団ごと投げられたルーファスは勢いよく壁に激突。
 鼻血を出しているルーファスにビビは優しい笑みを浮かべた。
「ダーリン……早く着替えてエスバット行こーっ!」
「あのねぇ……もっと僕を労わるってことを知らないの?」
「なんでぇ〜、いつもダーリンに尽くしてるつもりだよ」
「?つもり?でしょ」
「ひっど〜い、そうやってダーリンは可愛い女の子を苛めてウハウハ気分に浸るんでしょ? でも、わかってるの……それがダーリンのアタシに対する愛表現だって」
「違うし!」
「そんな照らなくてもいいんだよ。なんだったら今からアタシのこと……イヤン」
 ビビと言い合いをするといつも果てしなくバカらしくなってくるので、ルーファスは早々に掛け布団を引きずりながらベッドに退散。速やかな眠りにつくことにした。
 目を閉じて眠りにつこうとするルーファスの耳元で悪魔が囁く。
「ねえ、ダーリン、ダーリン、ダーリン!」
 もとい、悪魔が喚く。
 耳に手を当ててルーファスは完全無視。
「ダーリン出かけるよ」
「聞こえない、聞こえない」
 こう言ってる時は大抵聞こえている。
 顔を膨らませたビビがルーファスの服を強引に脱がせようとする。
「ほら、早く着替えて!」
「うわっ、やめろ!」
「ベルにルーファスも連れて来いって言われてるんだから」
「……行く(行かないと命の保証が無い)」
 今までのことがウソのようにルーファスはすっと立ち上がって着替えをはじめた。ベルに逆らうと後が怖い。
 着替えを済ませたルーファスはビビに手を繋がれながら家の外に出た。
 夜空には星が煌き瞬いている。そして、月明かりが世界を淡く優しく照らす。今日は満月であった。
 人通りのない静かな住宅街を歩く二人。
 ビビはルーファスの腕にしがみ付いて身体を寄せた。程よい体温がルーファスの身体に伝わり、このシチエーションがルーファスの心臓をドキドキさせる。いつも何も感じないのに、たまに相手を意識してしまう。だから、ルーファスはできるだけビビのことを見ないように星空を見ていた。
「ねえ、ダーリン」
「なに?」
 ルーファスはそっぽを向きながら答えた。その口調はどこか強がっているようだった。
「アタシのこと好き?」
「な、な、なんだよいきなり!?」
 取り乱しすぎ。そんなルーファスを見てビビは『う〜ん』と唸る。このルーファスの反応をどう取るべきかで悩む。
「ダーリン質問の答えは?」
「言えないよ、そんなこと!」
「ま、まさか、アタシ以外に女ができたのね!?」
「違うじゃなくて、違うが違う、ノーコメントです」
「わざわざノーコメントっていうことはいるってことだよね?」
「どうしてそういう解釈になるんだよ」
「もういい、聴きたくない」
 急にそっぽを向いて口を尖らすビビ。ルーファスとしてみればなんでこんな反応をされるのかわからない。逆ギレもいいとこだ。
「私が好きな人がいるって言えばいいの?(いないけどさ)」
「それはヤダ」
「(……意味わからない)」
「(もぉ、ルーちゃんのバカ!)」
 ビビは今までしがみ付いていたルーファスの腕から離れて早足で前を歩きはじめた。
 二人は少し離れた距離を無言のまま歩いた。
 その間、ビビは時折後ろを振り向いたのだが、ルーファスと視線が合うと怒った表情をして前を向く。ビビにそんな態度をされるもんだからルーファスはルーファスで腹を立てていた。二人の歩く距離はそうやって開いていった。
 だいぶ長い時間をかけて辿り着いたのは、ルーファスの通うクラウス魔導学院であった。
「あれ、ここなの?」
 いつもは乗り合い馬車で来る距離にある場所だ。
「徒歩で来たから疲れた。なにか乗り物に乗ってくればよかったのに」
「だってダーリンと一緒に夜空の下歩きたかったんだもん」
 ビビは固く閉ざされた正門をぴょんと乗り越えた。
 運動神経の鈍いルーファスは門を登ることができない。
「ちょっと手伝ってよ」
「しかたないなぁ」
 ガシッと掴み合う手と手。ビビが力いっぱい引き上げると、少し力が入りすぎてしまって後ろにバランスを崩してしまい、ルーファスも一緒に地面に落下してしまった。
 重なり合う視線。
 思わずルーファスはとっさの反応でビビの身体を抱きしめてしまっていた。
 いつもは攻めのビビがこの時ばかりは動揺した赤い顔をして、それを見つめるルーファスも真っ赤な顔をした。けれど、ルーファスはビビの身体をはなそうとしなかった。
「……ビビ」
「ダーリン……」
 地面に寝転がって抱きしめ合うふたりに忍者のように忍び寄る影。
「テメェラ不純異性行為シテンジャネエ!」
 謎の声を聞いて慌ててルーファスとビビが分離すると、それを見ていたローゼンクロイツが失笑した。
「……不潔(ふっ)」
 ローゼンクロイツの顔を確認したルーファスは状況理解に苦しみながら声をあげた。
「な、なんでローゼンクロイツがいるんだよ!」
「楽しいことがあるからって、魔女に呼ばれたんだよ(ふあふあ)」
 ローゼンクロイツはベルのことを魔女と呼んでいる。
 動揺しながらも気を取り直したフリをする二人と、それを心の中で笑う一人は校舎内に入ることにした。
 職員玄関の鍵は開いていて、そこから校舎内に進入した。